お茶の知識

日本五大銘茶の一つ朝宮茶について

朝宮茶

皆様は日本三大銘茶というのは御存じでしょうか?

お茶処である静岡の「静岡茶」、それに京都の「宇治茶」そして最後に埼玉県の「狭山茶」この3つが日本三大銘茶として挙げられています。

では日本五大銘茶というのは御存じでしょうか?

なぜ三大銘茶があるのに五大銘茶があるの?と思った方も沢山いらっしゃるかと思います。

私もそのうちの一人でした。

ただどういうわけか存在するのです。

その五大銘茶というのは「宇治茶」と「狭山茶」、そして三大銘茶の中の静岡茶からは有名な茶の地域である「川根茶」と「本山茶」が選抜されます。

これで4つ、つまり三大を四大に増やしても基本変わりはないということですね。

ただ五大銘茶にすると三大銘茶の地域以外のお茶が加わるのです。

そのお茶こそが滋賀県の朝宮茶です。

あまりお茶に詳しくない方だとあまりピンとこない人もいるかと思います。

そこで本日は日本五大銘茶に数えられながらも他の地域に比べると、どうしても少し影が薄れてしまう朝宮茶について詳しくお伝えしたいと思います。

朝宮茶とは?

朝宮茶とは滋賀県で採れるお茶の一つです。滋賀県で採れるお茶は全体的に言うと近江茶(おうみちゃ)と呼ばれておりその中で地域を絞ったそれぞれの茶産地のブランド名が存在します。

例えば静岡県産のお茶と言っても地域により本山茶、金谷茶、川根茶、沼津茶などそれぞれの地域の名がついたお茶があるように朝宮茶も地域を絞ったブランドがついたお茶であります。

滋賀県の最南端に位置し、東西に延びる甲賀市は滋賀県全体のお茶の生産量のうち約9割を担っている滋賀県の一大生産地で、市の東側にある土山地域で栽培されているお茶は土山茶、西側の信楽(しがらき)地域で栽培されているお茶は朝宮茶と呼ばれています。

実は朝宮茶は日本最古のお茶とも言われており、その歴史は1200年にもなる由緒あるお茶なのです。

ちなみに信楽地域は陶器で知られる信楽焼きが作られている地域でもあります。

滋賀県甲賀市の信楽地区に位置する朝宮はすぐ西が京都府という場所にあります。

標高300~400mの山間地にありまして昼夜の寒暖差が激しく霧が発生しやすく茶栽培において恵まれた気候風土により栽培されているお茶であります。

急傾斜を利用した茶園は日当たり良好になり水はけも良い反面重機器を持ち込めないため手作業で行わなければいけない負担がありますがそれによりより良いお茶が出来上がるのです。

また数キロ圏内に幹線道路すらない本当の自然の中で栽培されている正に自然のお茶と言えるでしょう。

葉肉が厚くしっかりとした茶葉がそれを表しているのかもしれません。

甲賀市朝宮地区は京都府の宇治市から山を越えた位置にある為かつては「隠れ宇治」とも呼ばれていましが、現在では幻の銘茶として知る人ぞ知るお茶の一つになっています。

朝宮茶は知名度こそ低い物のお茶通に好まれるお茶であり、農林水産大臣賞、通商産業大臣賞など品評会において幾度となく賞に輝いていることから疑いの余地なく素晴らしいお茶であると言えるでしょう。

朝宮茶を知らぬうちに飲んでいるかも?

朝宮茶を飲んだことがないという方の方が多いかと思いますが、実は口にしている可能性があるのです。というのもお茶というのはお茶農家などからお茶屋さんがお茶を仕入れて、いくつかの茶葉を「合組」という手法でお茶をブレンドし商品化するのがほとんどです。

この合組を行うことで、一つの茶葉では足りない要素を補ったり香りを出したりなどの効果が得られるのです。

京都府に隣接する朝宮のお茶は京都で販売されている宇治茶にも渋味や味の強みを加える為にブレンドされていることが多いらしく、宇治茶を飲んだ際に自然に朝宮茶を飲んでいた何てことがあるのかもしれないのです。

朝宮茶の特徴

「香りの朝宮」と呼ばれるほど香り豊かなのが朝宮茶の最大の特徴と言えるでしょう。

また渋みが強く味もしっかりとしています。このことから3煎目まで飲んでも茶の味を味わえるのも堪能できるのも朝宮茶ならではと言えるでしょう。

日照時間が短いことからテアニンが多く出ている為、味が濃いだけでなく旨味も感じられます。水色はやや黄色がかっています。

朝宮茶を実際に飲んでみて

茶葉の香りからですが、お茶の葉事態の香りが強く磯っぽいというよりはお茶本来の強い香りといった印象を受けました。

浸出したお茶の香り、パッケージの裏面通りの飲み方で抽出しました。温度は書いていなかったので80℃、時間は50秒で浸出してみました。浸出した際の香りは確かに独特でしっかりとしてはいるのですがどこか玉露のような丸みのある香りもします。

水色は確かに黄色がかっておりうすい黄緑色をしており非常にきれいな水色をしています。

少し温度が高めに淹れたのですが渋味はそれほど強くは感じはしないものの、味わいはしっかりしていました。

それでいて非常に旨味が強いのが特徴的であると感じます。

一口目ですぐにしっかりとしたうま味を感じることができます。

旨味が強いのが特徴的で、香りや味わいは独特と言われますが、それほど癖があるわけではない印象です。

ただ味がしっかりしているので深蒸しなどの丸い感じの味わいを好む方にはちょっと向かないかなとも思いました。

日本五大銘茶の産地の一つとしてその名に恥じない美味しいお茶でした。

朝宮茶の歴史

比叡山延暦寺の開祖である最澄が遣唐使としての任を終え、805年に唐より帰国した際に茶の種子を持ち返り日吉大社近辺(現在の滋賀県大津市阪本と「近江の国紫香楽朝宮(現在の甲賀市信楽町朝宮)」の地に植えたのが始まりとされています。

日吉大社に伝わる安土桃山時代にまとめられたとされる「日吉社神道秘密記」には、最澄が805年(延暦24年)に唐より茶の種子を持ち帰り、比叡山のふもとに植えて栽培したことが記録されています。

※この時の茶を蒔いた地区は現在も日吉茶園として残存してあり、日吉大社の一隅にある茶園もその時のものであると伝えられています。

日本茶が記されている最も古い文献である「日本後記」には805年(延暦24年)に嵯峨天皇が近江国梵釈寺を訪れた際に大僧都(だいそうず)永忠が茶を煎じて献じた記述があります。

892年(寛平4年)に成立した「類聚国史(るいじゅこくし)」には、805年(延暦24年)の6月に嵯峨天皇の命により、畿内ならびに近江、丹波、播磨に茶を植え、毎年これを朝廷に献上させたとあります。

室町時代の文明年間(1469~1487年)に信楽荘の代官と士豪が領主の近衛家(朝廷に使える公家であり、昭和期に内閣総理大臣を務めた近衛文麿を輩出した一族である)に朝宮茶を献上した記事が残っています。

関ヶ原の戦い(1598年)が終わり、徳川家康が江戸幕府開府(1603年)の間にあたる1602年(慶長7年)の検地帳には朝宮茶について、茶園「三町九段一畝二十一歩」茶樹「千二百六十本」と記されています。

岩谷山仙禅寺跡(滋賀県甲賀市信楽町朝宮)には現在「朝宮茶発祥の地」の碑が建てられています。

また松尾芭蕉(1644~1694年)が「木隠れて、茶摘みも聞くや、ほととぎす(今一声鳴いて渡っていったホトトギスの声を、茶畑の茶の木に隠れて見え隠れする茶摘女達も聴いたであろうか)」という句碑を残しています。

余談として松尾芭蕉が近江のことを「旧里(ふるさとの意)」と呼びこの地を気に入っており、彼の弟子にあたる門下は蕉門と呼ばれ各地に蕉門派が存在し近江の地にも「近江蕉門」も輩出しており、門人36俳仙と言われるうちの近江の門人は三分の一にあたる12名にも及びます。

日本屈指の銘茶である朝宮茶ですが、作業効率が悪い急傾傾斜地による栽培、茶農家の高齢化、後継者不足により栽培面積は減少しているのが現状です。

朝宮茶を広めるため、地域の方からなる一般社団法人「お茶芽Dream朝宮」が発足され、2016年より「朝宮お茶芽大学校」というイベントを行い朝宮茶の魅力を広めている。

2015年3月5には甲賀市議会で地元産のお茶等を信楽焼の器で振舞う習慣を広めるため「甲賀市甲賀の茶及び甲賀の地酒で信楽焼の器でもてなす条例(通称おもてなし条例)」が可決しお茶や信楽焼のPRを行っている。

現在では人手不足を補うために収穫時期がずれる茶種を栽培するなどの努力をしている。

※茶は収穫する一番いい時期を逃すと茶の良し悪しが変わってしまうため収穫適期に一気に摘むのだが、面積に対して人手が足りておらず一番いい収穫時期に収穫できなくなることを防ぐ為、収穫時期が異なる茶種を栽培。

2022年現在では栽培面積は約90ha、生産量は約180t/年です。

今後も日本が誇る五大銘茶の一つとしておいしいお茶作りが期待されます。